(腰の治療が怖くなった方へ|また外に出られるようになるまで)

座って患者さんの話を聞く院長。怖かった経験をそのまま話してもらう場面

【この記事のまとめ】以前どこかで腰の治療を受けて、かえって痛みが強くなった。それから「また痛くされるかも」と怖くて、行けないまま痛みをかかえている。そんな方に向けて書きました。同じところから始めた40代女性・Tさんが、週1回・6回で「外に出るのが怖くなくなった」「自信がついてきた」と言われるまでの記録です。残っている症状も、隠さずに書いています。

 

座って患者さんの話を聞く院長。怖かった経験をそのまま話してもらう場面
「怖かった」を、そのまま話してもらうところから始めます

 

治療で腰の痛みが強くなった経験があると、次の一歩が重い|こんな方に読んでほしい

 

こんにちは。たつの市フジイ整骨院院長藤井です。

 

腰が痛くて、思いきって治療を受けに行った。一度は楽になった。ところが、あるとき受けた治療のあとで、痛みがかえって強くなった。

 

それからです。「また痛くされるかもしれない」。そう思うと、どこかに行くこと自体が怖くなる。行かないでいるうちに、痛みは引かない。そのうち、外に出ることまで重くなってくる。

 

こんな経験をされた方、じつは少なくないんです。

 

玄関で靴を履きかけたまま手が止まっている40代女性の水彩イラスト
行こうか、やめようか。玄関で手が止まる

 

これ、あなたが弱いからではありません。痛い思いをしたら、体が「もう近づかないでおこう」と守ろうとする。それだけのこと。とても自然な反応なんです。

 

一度こわい思いをしてから、ここまで我慢してこられたんですよね。その時間の長さを思うと、次の一歩がどれだけ重いか、想像がつきます。

 

今日は、同じところから始まった40代の女性、Tさん(仮名)の6回の記録をお話しします。よくなった話だけではなく、途中で出た反応や、まだ残っている症状も、そのまま書きます。怖い方にこそ、隠さないほうがいいと思うからです。

 

実際にあったケース|農作業をされている40代女性・Tさん

 

Tさんは、農作業を中心にお仕事をされている40代の女性です。重い袋を持ち上げて運ぶ作業もあります。

 

朝、布団の上で起き上がりかけて左の腰を押さえる女性。左の腰からお尻、太ももの前側に痛みの光
朝、目覚ましより先に、痛みで目が覚める

 

朝、目覚まし時計より先に、腰の痛みで目が覚める。一日の始まりが、痛みから始まる。そんな毎日でした。

 

痛むのは、左の腰からお尻、そして太ももの前側にかけて。仕事は、立っている時間が長い。長く立っていると、左の腰からじわじわと痛みが広がってくる。それでも、作業は途中でやめられません。

 

重い袋を持ち上げないといけないときは、同僚の方にお願いして、小さいものに替えてもらったり、持たなくてすむようにしてもらったりしていたそうです。仕事のことなのに、まわりに頼まないといけない。思うように体が使えない。それは、痛みそのものとは別のつらさですよね。

 

そして、いちばん怖かったのは、外に出ることでした。「出先で痛くなって、動けなくなったらどうしよう」。日中ずっと、その心配が頭のすみにある。だんだん、外に出ること自体が重くなっていったそうです。

 

以前、別のところで治療を受けて、一度はましになったそうです。ところが、機械を使った治療を受けたあと、痛みが強くなった。それが怖くなって、行かなくなった。

 

ここで言っておきたいのは、その治療をされた方が悪いわけではない、ということです。体の状態によっては、刺激が強く感じられて、痛みが増すことがある。ただ、受けた本人にとっては「怖かった」という事実だけが残ります。それは、しかたのないことですよね。

 

行かなくなっても、痛みは引かない。困ったTさんは、ご自身で調べて、当院を探し当ててくださいました。

 

はじめてお会いしたのは、6月のことです。

 

初回|脚を持ち上げるだけで、体が逃げていました

 

初回に行った検査のひとつに、痛む側の脚をまっすぐ伸ばしたまま、ゆっくり持ち上げるものがあります。SLR検査(下肢伸展挙上テスト)と言います。腰やお尻、太ももの後ろの状態を見るための、よく使われる検査です。

 

Tさんの左脚は、全く上がりませんでした。少し持ち上げようとするだけで、体が「ダダダーっ」と逃げる。それくらい、痛かったんです。

 

太ももの前側、股関節、腰まわり。そのあたりが、とても硬くなっていました。股関節の開きも悪く、脚を上げようとする動きに、体が耐えられない状態でした。

 

怖い思いをされてきた方に、私が決めていることがあります。

 

何をするか、先に言う。どこを触るか、どう動かすか、口に出してから触る。そして、やさしい力で進める。痛いところを、いきなり押さない。体全体の歪みをゆるめていって、痛いところは、あとからついてくるのを待つ。

 

「痛いところを触られるのが怖い」という方ほど、この順番が大事なんです。

 

Tさんには、週1回のペースで来ていただくことにしました。

 

途中で出た「舌の奥のピリピリ」|反応を隠さないのが、怖さを減らす近道

 

正座で向き合った女性に、手のひらを見せながら説明する院長の水彩イラスト
何をするか、先に言う。触るのは、そのあとで

 

3回目の施術のあと、Tさんに、ある反応が出ました。舌の奥が、ピリピリする。

 

腰の治療をしているのに、舌。「え、関係あるの?」と思われるかもしれません。

 

4回目に来られたときにお聞きして、こうお伝えしました。体が変わっていくとき、痛い場所とは関係のないところに、一時的な反応が出ることがある。神経の流れが変わっていく途中で起きる、ひとつのサインです。Tさんのピリピリは、1週間ほどで消えていました。

 

もし、ここで私が何も言わなかったら。あるいはTさんが、怖くて言えなかったら。「またおかしくなった」と、そこで止まってしまったかもしれません。

 

一度こわい思いをした方にとって、施術中や施術後に起きることを先に知っておく、あとから聞いても説明してもらえる。これが、怖さを減らすいちばんの近道だと、私は考えています。

 

4回目「朝、痛みで目が覚めなくなった」|力みが抜けて、リラックスして受けられるように

 

4回目、7月の終わりのことです。来られたTさんが、こう言われました。

 

「楽になった」「朝、痛みで目が覚めることがなくなった」

 

朝の痛みで目が覚める。これは、毎日の始まりが痛みから始まるということです。それがなくなった。ここから変わりはじめました。

 

もうひとつ、私が印象に残っていることがあります。施術を受けているときの、体の力みが取れていたことです。

 

初回は、触られるたびに体がかまえていました。それが、この回はふっと力が抜けて、リラックスして受けておられた。体の変化と同じくらい、これは大きなことなんです。怖さがほどけてきた、ということですから。

 

この日は、ハイチャージという電気の治療で体を整えてから、いつもどおり手技で全身の歪みを調整しました。左の股関節と右側のバランス、お腹まわりも、ていねいに。

 

仰向けの患者さんの膝を曲げて股関節をやさしく調整する院長
何をするか先に言ってから、やさしい力で。股関節とお腹まわりを調整します

 

5回目「外に出るのが怖くなくなってきた」|あの脚が、すんなり上がりました

 

5回目、8月の中ごろ。Tさんの言葉です。

 

「だいぶ、外に出るのは怖くなくなってきた」

 

長く立っていると出ていた腰の痛みも「減ってきた」。日中、痛みが出るかもしれないという不安も、軽くなってきたそうです。

 

この回、初回に全く上がらなかった左脚を、もう一度ゆっくり持ち上げてみました。

 

すんなり、上がりました。

 

「良かったですね」。その場で、そうお伝えしました。

 

Tさんは、こう言われました。「結構これ、苦労した思い出がありますね」「不思議やなと思って。痛みが消えるみたいな感じで」

 

この回で、体の形はひととおりできあがった、と判断しました。ここからは、間隔を空けて、良い状態を保っていく段階です。痛みが3日以上つづくようなら、そのときは間隔を詰めて来てください、と目安もお伝えしました。

 

治ると人は、何に苦しんでいたか忘れるんです|「大掃除が終わっただけ」の意味

 

このとき、Tさんに、もうひとつお話ししたことがあります。

 

初回のあの痛みを、Tさんはもう、はっきりとは覚えておられませんでした。「本当にのど元すぎれば、で。みんな何に苦しんでたか忘れちゃうんです」

 

これ、悪いことではないんです。むしろ、よくなった証拠。怖かったこと自体も、だんだん薄れていきます。それでいい。

 

ただ、ひとつだけ。

 

「今、大掃除が終わっただけなんです。ふだんのゴミというのは、どうしても、たまる」

 

長いあいだにたまった体の歪みを、ここまでで一度きれいにした。でも、農作業をして、袋を持って、毎日を過ごしていれば、小さな歪みはまた積もっていきます。だから、月に1回くらいは掃除をしましょう、というのが私の考えです。ゼロにはならない。それを前提に、つきあっていく。

 

6回目「自信がついてきた」|重い袋も気にならずに持てるように。でも、反る動きはまだ

 

6回目、9月の中ごろ。4週間空けての来院でした。

 

「だいぶ徐々に徐々に、気になる時間も減ってきた」「普通どおり動けるようになって、よかった」「自信がついてきた」

 

お仕事で持つ重い袋も、気にならずに持てるようになったそうです。同僚の方に小さいものに替えてもらっていた、あの袋です。持つ量を増やしたわけではありません。同じ量が、気にならなくなった。

 

この回から、電気の治療は使いませんでした。体が「もう必要ない」と言っている状態でしたので、手技の調整だけで進めました。

 

残っている症状も、書いておきます。腰を反る動きは、まだむずかしい。反ると、左側が痛みます。骨盤の後ろ側にある靭帯のかたさが関係していると見ています。ここは、次回も見ていくところです。

 

全部なくなったわけではない。でも、気になる時間が減って、外に出ることが怖くなくなって、「自信がついてきた」と言えるようになった。それがTさんの、6回目の姿です。

 

いまは3週間に1回のお手入れで、良い状態を保っています。

 

【研究データ】腰痛のある方の「痛みへの怖さ」が、その後の回復に関係するかを調べた研究をまとめた論文があります(Wertli MM ほか, The Spine Journal, 2014)。痛みが出てから4週間〜3か月の「亜急性期」の方では、「動くと痛くなるかも」という怖さが強いほど、仕事にもどりにくいなど経過が悪くなりやすい、という結果が複数の調査(258〜1,068人)でそろっていました。ただし、この論文の中心は「仕事にもどれるか」という結果で、対象も保険会社の記録が多く、日本の農作業をされる方とは背景がちがいます。また、痛みが3か月をこえて長引いている方については、結論がはっきりしていません。「怖さは治療の妨げになる」と言いきる材料ではなく、「怖さも、いっしょに見ていく必要がある」と考える材料として受け取ってください。
出典:Wertli MM, Rasmussen-Barr E, Weiser S, Bachmann LM, Brunner F. The Spine Journal. 2014;14(5):816-836.

 

今日からできること|「立ち上がりがスムーズか」を体調のものさしに

 

Tさんには、特別なストレッチや体操はお伝えしていません。それよりも、ひとつだけ。

 

朝、椅子から、布団から立ち上がるとき。その動きがスムーズかどうかを、体調のものさしにしてください。

 

すっと立てる日は、体が整っている。「よいしょ」と手をついて、ためらう日は、少し歪みがたまってきている。それだけ覚えておいていただければ、体の声が聞き取りやすくなります。

 

散歩や、田んぼの仕事。ふだんの軽い活動は、そのまま続けていただいてかまいません。痛みが出るからと動かなくなると、怖さのほうが大きくなってしまいますから。

 

こんなときは、お医者さんへ

 

ひとつだけ、大事なお願いがあります。

 

脚にしびれが出ている。力が入らない。おしっこや便が出にくい、あるいはもれる。じっとしていてもズキズキする。熱がある。転んだり、しりもちをついたあとから痛い。こうしたときは、まずお医者さんに診てもらってください。

 

「いつもの腰の痛みと、なにかちがう」。そう感じたときは、遠慮なさらずに病院へ行ってくださいね。

 

よくある質問(Q&A)

 

Q1. 治療のあとに痛みが強くなるのは、失敗だったということですか?

 

かならず失敗、とは言えません。体の状態によっては、刺激が強く感じられて、一時的に痛みが増すことがあります。ただ、受けた本人にとって「怖かった」という事実は残ります。それを「気のせい」で片づけないでほしい。次に治療を受けるときは、「以前こういうことがあった」と最初に伝えてください。それを聞いて、進め方を変えるのが、私たちの仕事です。

 

Q2. 「もみ返し」と「悪化」は、どう見分ければいいですか?

 

私の治療経験では、施術後の一時的な反応は、だるさや軽い痛みで、2〜3日、長くても1週間ほどでおさまることが多いです。Tさんの舌のピリピリも、1週間で消えました。一方で、日がたつほど痛みが強くなる、しびれや脱力が出てくる、という場合は、様子見をせず、受けたところか医療機関に相談してください。判断に迷うときは、遠慮なく連絡していただいてかまいません。

 

Q3. 怖くて体に力が入ってしまうのですが、施術は受けられますか?

 

受けられます。むしろ、力が入るのは自然なことです。Tさんも、初回は触られるたびに体がかまえていました。私は、何をするか先に言ってから触る、やさしい力で進める、痛いところをいきなり押さない、という順番で進めます。4回目には、力みが抜けて、リラックスして受けておられました。力が抜けるのを待つのも、治療の一部だと考えています。

 

Q4. 左のお尻から太ももの前まで痛いのは、坐骨神経痛ですか?

 

お尻から太ももの後ろ側にかけての痛みやしびれは「坐骨神経痛」と呼ばれることが多いですが、太ももの前側の痛みは、別の神経や、股関節・お腹まわりの筋肉のかたさが関係していることもあります。私の治療経験では、Tさんのように太ももの前側・股関節・腰まわりがいっしょに硬くなっている方が多く、部位だけで決めつけることはしていません。しびれや脱力が強い場合は、まず医療機関で診てもらってください。

 

Q5. 施術のあとに、舌や別の場所にピリピリが出ることはありますか?

 

あります。腰の治療をしているのに舌、というと不思議に思われますが、体が変わっていくとき、痛い場所とは関係のないところに一時的な反応が出ることがあります。神経の流れが変わっていく途中のサインだと、私は説明しています。Tさんの場合は1週間ほどで消えました。ただし、1週間をこえてつづく、だんだん強くなる、というときは、かならず教えてください。

 

まとめ

 

治療を受けて、かえって痛くなった。それから怖くて行けなくなった。その時間が長いほど、一歩目は重いものです。

 

Tさんは、脚を持ち上げるだけで体が逃げるところから始まりました。3回目のあとには、舌のピリピリという思いがけない反応も出ました。それでも、4回目には朝の痛みで目が覚めなくなり、5回目には「外に出るのが怖くなくなってきた」、6回目には「自信がついてきた」。腰を反る動きは、まだ残っています。それも含めて、今の姿です。

 

怖かったことは、よくなるにつれて、だんだん忘れていきます。それでいいんです。忘れられるくらいの毎日を、いっしょに保っていけたら。

 

その一歩目を、痛くない形で受け止めるのが、私の仕事だと思っています。もし「また痛くされるかも」で足が止まっているなら、最初に、その怖さをそのまま話してください。そこから、始めましょう。

 

🖊️ この記事を書いた人

氏名:藤井 敦志(ふじい あつし)

資格:柔道整復師・鍼灸師・あんまマッサージ指圧師

兵庫県たつの市でフジイ整骨院を開業して20年以上になります。骨・筋肉・関節の専門家である柔道整復師と、鍼灸師の国家資格を持ち、体の痛みや不調を幅広く診ています。自費専門・完全予約制のため、お一人おひとりの状態をじっくり確認しながら治療を行っています。

 

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