【この記事のまとめ】夏の終わりに「背中が重い」「肩甲骨の間が張る」「胸の前まで突っ張る」という方が増えます。冷房と座りっぱなしで胸まわりが縮こまり、呼吸まで浅くなっていることが多いんです。事務職の58歳女性の事例から、背中だけを揉まずに整えた理由をお話しします。ただし締めつけられる胸の痛みは、まず病院へ。
目次
はじめに|「何もしてないのに背中が痛い」その感覚、覚えがありませんか
こんにちは。たつの市フジイ整骨院院長藤井です。
朝、目が覚めた時点でもう背中が重い。肩甲骨と肩甲骨の間が、ずっと張っている。そのうち、胸の前のほうまで突っ張る感じが出てきた。
8月の後半から9月にかけて、こういうご相談が増えます。
しかも、重い物を持った瞬間に「グキッ」といったわけでもない。心当たりがまるでない。だから患者さんご自身が、いちばん不思議そうな顔をされるんです。「何もしてないのに、なんでですやろ」と。
その気持ち、よくわかります。原因が思い当たらない痛みほど、不安なものはありませんよね。
でも、じっくりお話をうかがうと、たいてい心当たりはちゃんとあります。ご本人が気づいていないだけで。

先に大事なこと|こんな胸の痛みは、まず病院で診てもらってください
本題の前に、どうしても先にお伝えしておきたいことがあります。
胸に強い痛みがあるときは、注意が必要です。
締めつけられるような痛み。息苦しさ。冷や汗。吐き気。強い動悸。こうした症状をともなう場合は、姿勢や筋肉の問題と決めつけないでください。まず医療機関で確認していただきたいのです。
遠慮せず、受診してください。何もなければ、それがいちばんです。
ここから先は、そうした症状がない場合のお話として読んでいただければと思います。
58歳女性Kさんのケース|夏バテだと思っていたら、胸の前まで違和感が広がってきた
Kさんは58歳の女性。事務のお仕事をされています。
平日はパソコンの前に座っている時間が長く、以前から多少の肩こりはありました。ただ、仕事に困るほどではない。「凝ったなと思ったら、お風呂に入って寝たら治る」。その程度だったそうです。
変わりはじめたのは、8月のお盆を過ぎた頃でした。
夕方になると、肩甲骨と肩甲骨の間が重たくなる。最初は「お盆の疲れやろ」と思っておられました。ところが数日たっても抜けません。そのうち、朝起きた時点で背中の重さが残るようになりました。
寝返りをうつと背中が引っぱられる。起き上がって体を伸ばすと、肩甲骨の間が突っ張る。
そしてある朝、大きく伸びをしたときに「胸の前まで張る感じがする」。ここでさすがに不安になられて、来院されました。
お話をうかがっていくと、夏のあいだに生活がずいぶん変わっていました。
暑いので、夕食後の散歩をほとんどやめてしまった。職場は一日中冷房が入っている。帰宅しても暑さでぐったりして、ソファで過ごす時間が長くなった。夜は寝苦しくて、何度か目が覚める。
つまり「何もしていない」のではなかったんです。体を動かさない状態が、1か月以上ずっと続いていた。これは立派な心当たりです。
体を確認すると、頭が少し前へ出て、肩が内側に入っていました。腕を上げてもらうと左右差もある。

そして深呼吸をしていただくと——胸が大きくふくらむというより、肩をちょっと持ち上げながら息を吸っておられました。
ここまで見て、「背中の筋肉が凝っています」で片づけてはいけないな、と思いました。
背中と胸はつながっている|アコーディオンのジャバラで考える、夏の姿勢と浅い呼吸
背中と胸は、別々に動いているわけではありません。
胸には肋骨(ろっこつ/胸をかごのように囲んでいる骨)があります。前側から体の横をぐるっと通って、背中まで続いている。そして呼吸のたびに、この胸まわり全体がわずかに広がって、また戻っています。
私はよく、アコーディオンのジャバラにたとえます。
ジャバラは、全体が伸び縮みするから音が出ますよね。でも一部分がぺしゃんこに固まってしまうと、他がいくら動こうとしても、全体としては広がらない。
背中を丸めて肩を前に出した姿勢が長く続くと、まさにこれが起こります。胸の前側が縮こまる。すると背中側も動きにくくなる。そして呼吸まで浅くなる。
Kさんの夏が、ちょうどそうでした。歩く量が減り、座る時間が長く、帰宅後もソファ。それが2か月近く続いていたわけです。
もう一つ、やっかいなのが「慣れ」なんです。
姿勢は1日で急に崩れるものではありません。1か月、2か月かけて、少しずつ変わっていく。すると、それがご本人にとっての「普通」になります。だから鏡を見ても、自分では気づけない。
これは、だらしないとか気をつけていないとか、そういう話ではありません。人の体は、みんなそういうふうにできています。暑い夏を乗り切るために体が選んだ結果、とも言えます。
だから私は、痛いところだけを見ません。腕の上がり方、体のひねり、肩甲骨の動き、そして呼吸の入り方まで確認します。なぜそこへ負担が集まったのか。知りたいのは、そこなんです。
フジイ整骨院で行った確認|痛い背中を、あえて揉まなかった理由
Kさんには最初に、こうお伝えしました。「今日は背中だけを触るのではなく、体全体を確認させてくださいね」と。
背中が痛いのに背中を触らない。不思議に思われたかもしれません。
でも、縮こまっているのが胸の前側なら、背中をいくら強く押しても、押された背中は「もっと張らなあかん」とがんばるだけなんです。痛いところは、たいてい被害者のほうです。
首、肩甲骨、胸まわり、背骨、骨盤。順番に確認して、動きが悪くなっているところから整えていきました。強く押し続けることはしていません。

痛い場所イコール一番悪い場所とは限らない。そう感じる場面が、本当によくあります。だからこそ、施術の前と後で動きを比べる。その方に何が必要かは、そこで見えてきます。
施術のあとに起きた変化|「息が入りやすいです」
施術の途中で、もう一度腕を上げていただきました。
「さっきより軽いです」
続けて体をひねって、深呼吸をしてもらいます。
「息が入りやすいです。胸の前も楽ですね」

この「息が入りやすい」という言葉。背中の施術で出てくると、私はほっとします。胸まわりが動きはじめた合図だからです。
もちろん、初回ですべてが消えるわけではありません。大事なのは、体が良い方向へ動きだしているかどうか。そこさえ確認できれば、あとは積み上げるだけです。
その後Kさんは、こう話してくださるようになりました。
「朝の背中の固さが、前ほど気にならなくなりました」
「仕事中に背中のことを考える時間が減りました」
胸の前の突っ張り感も、気にならない日が少しずつ増えていきました。
背中が痛いと、一日じゅう背中のことを考えてしまうんですよね。そこから解放されたことが、Kさんにとっては一番だったのかもしれません。
家でやっていただいたこと|難しい運動は、ひとつもお願いしていません
Kさんにお願いしたのは、この3つだけです。
長時間、同じ姿勢を続けないこと。仕事中に、ときどき立つこと。涼しい時間帯に、少し歩くこと。

たったこれだけ?と思われるかもしれません。
でも、ストレッチのメニューを10個お渡ししても、忙しい方は続きません。続かないものは、効きません。それより「1時間に一度、立ってコピー機まで歩く」のほうが、よっぽど体は変わります。
夏のあいだに小さくなった動きを、少しずつ戻していく。それだけのことなんです。
まとめ|「夏バテやろ」で片づけてしまう前に
夏の終わりに背中が痛くなると、「冷房で冷えたかな」「夏バテやろ」「年やしな」と考えてしまいがちです。もちろん、一時的な疲れで落ち着くこともあります。
ただ、こんな変化が重なっているときは、一度みてもらってください。
夕方だけだった背中の重さが、朝にも残るようになった。肩甲骨の間から、胸の前まで張るようになった。深呼吸がしにくい。腕が上げにくい。
とくに50代・60代では、「痛くて動けない」の前に、もっと小さなサインとして出てきます。以前より疲れが抜けない。朝から背中が固い。体を伸ばしにくい。
その段階でみてみると、症状が出ている場所とはまったく別のところに、動きにくさが見つかることも少なくありません。

「まだ我慢できるから大丈夫」。そう思って、そのまま秋を迎えようとされている方も多いのではないでしょうか。夏を乗り越えた体は、ご自分で思っておられる以上に疲れています。
背中や胸の違和感は、体からのお便りのようなものです。せっかく届いたのですから、一度読んでみませんか。
補足|「背中が丸いと息が浅くなる」は、研究でも確かめられています
アコーディオンのジャバラのお話をしましたが、これは私の作り話ではありません。研究でも調べられていることなので、根拠のほうも書いておきます。
背中が丸い人ほど、胸が横に広がっていなかった
背中の丸みと呼吸の関係を調べた研究があります。骨粗鬆症で背中が丸くなった女性15人と、そうでない女性15人を比べたものです。
結果は、背中が丸いグループのほうが肺活量・最大吸気量・全肺気量が低く、胸が横に広がる幅も小さかった。しかも背中の丸みが強い人ほど、その数値が小さいという関係が見られました(Culham ら、Spine、1994年)。
胸が広がりにくくなると、息が入りにくくなる。数字としても、そうなっていたわけです。
胸まわりを動かすと、横隔膜の動きが変わった
では、動かすとどうなるのか。
背中が丸くなっている19人に、8週間かけて胸のまわりを動かす施術を続けた研究では、深呼吸したときの横隔膜(お腹と胸を仕切っている、呼吸の主役の筋肉)の動きが改善しました(Jung ら、Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation、2022年)。
Kさんが「息が入りやすいです」とおっしゃった、あの変化です。
ただし、そのまま当てはめてはいけません
正直にお伝えしておきます。
最初の研究は骨粗鬆症で背中が丸くなった方が対象で、Kさんのように夏のあいだの姿勢で丸くなった状態とは、条件が違います。2つ目の研究も19人と、けっして多い人数ではありません。「背中を動かせば必ず息が楽になる」と言えるほどの証拠ではない、というのが正確なところです。
それでも、背中と胸と呼吸がつながっているという方向性は、研究でも臨床でも一致しています。私が施術のあとに必ず深呼吸をしてもらうのは、そういう理由からです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 背中の痛みが胸の前まで広がるのは、なぜですか?
肋骨は背中から体の横を通って、胸の前までぐるっとつながっています。ですから背中側の動きが悪くなると、前側にも張りとして出てくることがあります。ただし、締めつけられるような胸の痛み、息苦しさ、冷や汗、吐き気をともなう場合は別です。その場合はまず医療機関で確認してください。
Q2. 病院と整骨院、どちらに行けばいいですか?
胸の症状がある場合は、まず医療機関です。心臓や肺に問題がないか確認していただいて、そのうえで「異常なし」と言われたのに背中や胸の張りが残る、深呼吸がしにくい、腕が上げにくい。そうした状態でしたら、姿勢や動きの面から見ていく意味があります。
Q3. 冷房で背中が痛くなることはありますか?
冷房そのものより、冷房の効いた部屋で長時間動かずに座っていることのほうが大きいと考えています。寒さと筋肉・関節の不調を調べた研究でも、寒さで筋肉の力が落ちる、腱が硬くなるといった変化が指摘されています。ただ、体を動かせていればその影響は小さくできます。
Q4. マッサージで揉んでもらうと楽になるのに、すぐ戻ってしまいます。
よくうかがうお話です。張っている場所は、負担を引き受けている側であることが多いんです。そこをゆるめると一時的に楽になりますが、負担を生んでいる大もと(この記事でいえば胸まわりの縮こまり)が残っていれば、また同じところに戻ってきます。戻るのは、あなたのせいでも施術者のせいでもありません。
Q5. デスクワーク中に、その場でできることはありますか?
1時間に一度、立ち上がるだけで十分です。立ってコピー機まで歩く、給湯室まで行く。それだけで胸まわりの姿勢はリセットされます。ストレッチを覚えるより、立つ回数を増やすほうが続きますし、結果的に効きます。
🖊️ この記事を書いた人
氏名:藤井 敦志(ふじい あつし)

資格:柔道整復師・鍼灸師・あんまマッサージ指圧師
兵庫県たつの市でフジイ整骨院を開業して20年以上になります。骨・筋肉・関節の専門家である柔道整復師と、鍼灸師の国家資格を持ち、体の痛みや不調を幅広く診ています。自費専門・完全予約制のため、お一人おひとりの状態をじっくり確認しながら治療を行っています。
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